算数教育における構造改革
全人的な発達をめざす算数教育への転換(3ケ年計画) 平成13年8月吉日
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T 算数教育の問題点
1 忍び寄る基礎学力低下
(1) 基礎学力とは
算数科における基礎学力の意味は,指導要領解説・算数編(P5)によると,第1に「生活(学習)に必要になるもの」であり,第2に「算数の新しい考えを生み出したり,問題解決などの方法をつくったりするのに必要になるもの」であると,述べられている。ここで,第2の意味は発展的学力とも呼ばれるもので,算数教育研究の中心であるものの,全ての児童が身につけるには至っていない。また,内容研究であるため,全ての教師がすぐに理解して取り組むことはできない。例えば,数学的な考え方の育成を研究テーマとすると,数学的な考え方とは何かから始まって育成のための様々な指導法を研究していくことになる。このようなことは,全校で算数教育研究に取り組む場合か,個人的にライフワークとして算数教育研究に取り組む場合はさておき,なかなか大変である。これに対して,第1の意味は基礎的な知識と技能のことであり,全ての児童が身につけてほしいものである。また,全ての教師がすぐに取り組めることでもある。
これらのことから,基礎学力とは,基礎的な知識と技能,中でも計算力を指すことにする。勿論,計算力以外の基礎学力も学習にとって大切であるが,これについては,他の研究に譲ることにする。 基礎学力(以下計算力とする)は,国際調査によると低下していないということである。しかし,大学生の計算力は,確実に低下しており,指導している実感としては,児童の計算力も年々低下しており,しかも,低年齢化している。国際調査によって,児童・生徒の計算力が低下していることが明らかになるのも,時間の問題かもしれない。計算力低下は,足元まで忍びよっている。
(3) 基礎学力低下の影響
このようになったのは,低学年から計算の基礎について正しく理解した後,十分に習熟するということができていないためである。 {算数教育ネットワーク岡山HP「忍び寄る計算力低下への処方箋」参照} 1学年・・・・たし算・ひき算の基礎である「10までの補数」について習熟し,数えたし・数えひきから,補数を使った瞬時の計算をすることができていない。 4+2,7−2ばかりではなく,8+3,15−8のような計算まで, 数えている。 2学年・・・・8+3,15−8のような繰り上がり(下がり)が習熟できていないので,(2位数)±(2位数)の計算ができない。 3学年以降・・九九ができても,その後のたし算・ひき算を間違うので,正しく計算できない。 基礎学力低下の影響は,3点考えられる。第1は,指導時間への影響である。基礎学力の定着が 図られていないので,前学年の復習に指導時間を割り当てざるを得ない。これを繰り返すと,上の学年ほど該当学年の指導内容に割り当てる時数は減少するのである。まるで,赤字国債を発行すると ,返済のために該当年度の事業予算が減少するのと同じである。記憶を主とする学習では,このようなことはないだろうが,算数は学習したことを基礎として次々に学習するので,既習事項の復習をせざるを得ないのである。
該当学年の指導内容に割り当てる時数の減少は,必ず学習内容の未消化となって,学習意欲や学習規律・学習習慣低下となる。やむなく指導内容を削減しても,学びの構えは,低下しているので,数年後には,再び指導内容を削減せざるを得ない。こうして,学力は,どんどん低下するのである。 第2は,思考力など発展的学力への影響である。例えば,1学年の8+3や13−5などの計算では,10までの補数を基礎とした10までのたし算やひき算を基にして,繰り上がりや繰り下がりの仕方を 考えていく。これを数えたし・数えひきで済ませて,結果のみを覚えたなら,考えるところはなくなってしまう。この暗記へ道は,2学年のかけ算では,5×9=45が説明できなくなることに通じ,6学年では2/5÷7/9の計算の仕方を理由が分からないまま覚えなければならないことに通じる。覚えること に終始して,悟ることが少なければ,算数は好きになれないし,社会が望む学力(思考力・問題解決力)もつけられない。 第3は,子どもたち・日本の将来への影響である。学力の低下は,少子社会の日本にあっては,大学入学まで何ら問題にならないであろう。しかし,問題はその後である。 必ず国際競争力の低下となって,子どもたち・日本の将来を危うくするであろう。多くの教育論議の中には,国内だけしか見ていないのではないかと思われるものもある。子どもたちは,将来世界中の子どもたちと際限のない競争社会の中で生活していかなければならない。我々教師は,狭い教室の中にあっても,子どもたちに,世界の中で生きていく力をつけているだろうかと常に問い続ける姿勢が必要ではないだろうか。 2 能力第一主義の学力観の弊害
戦後の復興を支えた教育の最大の成果は,知識・技能・思考力等における高い能力を備えた多数の国民を世に送り出したことにあるだろう。能力第一主義の学力観によって,高度成長もなし得たともいえる。しかし,その学習目的は,多分に個人主義的な側面があったことは否定できない。戦後半世紀を経て,ようやくその弊害がみられるようになってきたのではないだろうか。それは,高い学習能力を反社会的な事に用いる事例が後を断たないことにも現れている。高い能力をもった人は,学習への意欲が高いが,能力をよりよく生かす態度が高いかどうかは別問題である。もはや,学ぶことは善であるという期待のもと,算数を含む教科教育は能力の向上を目的とし,使い道は人の自由に任せるというのでは,社会はもたない。もっと積極的に,能力とともにそれをどう使うかという人としての有り様も考えていく必要があるのではないだろうか。 U 全人的な発達をめざす算数教育
1 全人的な発達とは
今まで,算数を含む教科教育では,第1に基礎学力の定着を図る指導,第2に思考力など発展的学力の充実を図る指導を行ってきた。これでよかったのは,健全な生活を営み勤勉の大切さを教え,穏やかな人間関係をむすび,規範を尊重する家庭・社会があったからである。しかし,この前提は,かなり壊れている。それにもかかわらず,ひたすら学力をつけようと努め,叶えられず,行き詰まっているのが教科教育の現状ではないだろうか。もはや,構造的改革が必要な時期にさしかかっているといえよう。これからは,人や物とどのような交わりの中で学べばよいのかとか,能力をどう使えばよいのかといった指導,つまり,人格の向上めざす指導が必要であると考える。これを,第3の指導とする。第1〜第3の指導を関連的に行うことによって,人格・識見(能力)が調和を保って発達することを.全人的な発達ということにする。この点において,平成11年5月に示された小学校学習指導要領解説・総則(P46)に載っている総合的な学習の時間のねらい「〜自己の生き方を考える〜」は,注目に値する。しかし,このことが総合的な時間に留まっているようでは,改革はおぼつかない。なぜなら,学校での授業時間のほとんどは,教科教育の時間であるからである。教科教育の構造改革なくして教育改革はあり得ないのである。教育改革の成功によって,学校が一人学びでは達成できにくい活動的で協同的で思索的な学びを実現し,人格・識見(能力)ともに優れた人間を生み出すことができれば,学校は社会を健全化する上で地域にとってかけがえのない共同体として息を吹き返すと確信する。第1・第2の指導のねらいは,学校教育法第18条から読みとることができるが,第3の指導のねらいは,教育基本法第1条(教育の目的)「教育は,人格の完成をめざし,〜」によって読みとることができる。社会的な病みが広がっている今こそ,教育基本法に示された教育の理念を実現し,社会を健全化することによって学校のよさ教育のすばらしさを世に知らしめる時ではないか。ここでは,教科教育における構造改革のさきがけを,算数科において成していくための取り組みを述べる。 2 全人的な発達をめざすために
(1) 算数科で育てる徳性について
全人的な発達をめざすためには,算数科の授業の中で育てるべき徳性に留意していなければならない。この徳性を考える上で示唆を与えてくれるのが,自己実現の心理学といわれる「マスローの欲求5段階説」である。 マスローの欲求5段階説
マスローの欲求5段階説によって,算数科で育てる徳性について述べる。 @Aに関して {生きる力の「自律」} ・健康や安全に気をつけ,規則正しい生活をしようとする。 (不健康な衣食の生活や,不適切な睡眠時間等の是正) ・学級や学校のきまりを守り,人や物を大切にしようとする。 (学級や学校のきまりを無視し,人や物を粗末に扱い,安全を脅かす行動の是正) BCに関して {生きる力の「協調」や,「思いやり」} ・誰も学級・学校の大切な一員であるという気持ちをもち,共感的に人の考えを聞いたり 話したり,励まし合ったりしようとする。 (活動的で協同的で思索的な学びによる,人に無関心な一人学びの是正) Dに関して{生きる力の「たくましさ」や,「主体的な問題解決力」} ・向上心(あこがれ)をもち,計画を立てて,粘り強くやり遂げようとする。 (刹那的・短絡的な行動の是正) ・数理的な処理のよさに関心をもち,進んで活用しようとする。 (思考によらず,結果のみを覚えようとする学び方の是正) ・算数で学んだことを,よりよく社会に生かそうとする。 (能力の使い方に言及していない教育の是正) (2) 取り組みのポイント
@ 指導の関連と順序
全人的な発達をめざすためには,第1の指導「基礎学力の定着を図る指導」,第2の指導「発展的学力の充実を図る指導」,第3の指導「人格の向上めざす指導」を関連的に行うことがポイントの1つである。つまり,第1の指導「基礎学力の定着を図る指導」をする際には,児童が理解していないことを暗記させたり,習熟させたりすることのないように留意する。また,第2の指導「発展的学力の充実を図る指導」を行った後は,学習事項が次の学習の基礎・基本になるという算数学習の特性から,学習事項を用いる場面の理解も含めて徹底的に習熟を図る。そして,第1・第2の指導の際には,いずれ第3の指導を行うことを念頭に入れ,算数科で育てる徳性に留意しておく必要がある。 次に,指導の順序については,必ずしも第1の指導,第2の指導,第3の指導の順になるとは限らない。基礎学力がほぼ定着している場合は,第2の指導,第3の指導から入ることもある。また,生徒指導上の問題が多い場合は,第3の指導の中で,人や物とどのような交わりの中で学べばよいのか,ということを最初に指導することが望ましい。
A 学校ぐるみで
全人的な発達をめざすのは,世界的な競争に生き残れる人間を育てるためであり,社会を健全化することをめざすためである。今,日本は,世界一の少子高齢社会に向かって邁進している。また,目を外国に向ければ,イギリス・アメリカ・韓国・中国・マレーシア・シンガポール等々諸外国では教育改革が進み,学力の向上が著しい。その成果によって,企業の活動は活発である。日本の企業は,低コスト高技術を求めて生産を外国にシフトしたり,生産・販売の拠点を整理統合したりして,懸命に構造改革に取り組んでいる。しかし,やむなく倒産の憂き目に合い,路頭に迷う人々も続出している。このように,社会的に様々な問題を抱えた日本が,このまま改革なしに時を過ごしてしまえば,子どもたちは,働く場所を日本で得られず,負担ばかりがのしかかる事態に陥ってしまう。21世紀前半は日本にとって,世界で最も過酷な状況になるかもしれない。事態はそれほどひっ迫している。この状況を打開するには,5年・10年かかろうとも,教育改革によって,学校を学びの共同体・教えの共同体に変え,世界的な競争に生き残れる人間を育て,社会を健全化していく以外にないと思う。 この目標を認めるのであれば,担任した1年間で成果を見るという考えではなく,学校ぐるみで取り組み6年間の成果を見るという考えをもつ覚悟をしなければならない。いわゆる,卒業生で勝負するという考えである。これが,もう1つのポイントである。最終的な目標からすれば,10年・20年の年月が必要だが,とりあえずの見通しをもつだけならば,3年間あれば十分である。子どもたちが,全人的な発達を遂げているかどうかは,中学校へ進んだ子どもたちが示してくれるからである。 V 全人的な発達への取り組み(3ケ年計画)
1 基礎学力の定着を図る指導
(1) 学校での指導 基礎学力の定着を図る指導は,学級・学年の垣根を取り払い,子どもたちが,算数科で育てる徳性の中の,向上心(あこがれ)をもち,集中力をつけられるように,学校ぐるみで,6年間継続して取り組まなければ効果がない。学級やグループで励まし合うことで,学びの共同体意識が芽生え,やりがいや楽しさが生まれてくる。(徳性BC) 無理な目標や,あれもこれも取り組む無駄や,取り組む学級や取り組まない学級があるといった斑(ムラ)は,慎まなければならない。 「10までの補数」「表のたし算・ひき算・九九・かけ算・わり算」{資料参照}いずれも,十分な理解の後に習熟の練習に入る。週1〜3回の朝の学習と,算数の授業,週2〜3回の宿題の中で行う。1回は8分までとする。(プリントの配布回収を含めて10分で済ませる。)なお,毎回記録をつけ,教師も励ましてあげることが大切である。子どもたちは,学級への所属感や向上心をもち続けることができるからである。(徳性B〜D) 他の学級や上の学年の様子を尋ねるようであれば,知らせてあげればよい。そのような子どもは,向上心(あこがれ)をもち,自ら練習するであろう。(徳性D) 全ての計算は,10までの補数を出発点とする1桁の計算の繰り返しでしかないので,これをよく身に付ければ,高学年や,中学校以降の学習でも誤りが少なくなることを話してやることも大切である。子どもたちは,学習の目的を理解して努力するであろう。 (徳性D) 次に,基礎的な計算練習のおよその目標(3ケ年計画)を示す。
なお,基礎学力の定着を図るためには,国語科の学習も大切である。朝の全校読書,音読,暗唱,漢字・語句練習等で国語の力も回復させたい。問題文が読めなかったり,語句の意味が分からなかったりして,算数の学習が進まない状況が年々ひどくなっているからである。 (2) 家庭との連携
全人的な発達をめざすためには,算数科で育てる徳性について留意していなければならないことは,先に述べたが,徳性の@〜Cについては,学校だけでは十分達成できないので,家庭との連携が是非とも必要である。今日,家庭の教育力が低下しているといわれているが,日本の危機的場面を克服するためには,家庭との連携が必要なことを学校新聞・学級新聞・学級懇談・PTA懇談会等ありとあらゆる機会を捉えて,訴えなければならない。朝からあくびをしたり,食事を十分せずに登校したりしていたのでは,(徳性@Aの欠落),学力どころではないのである。連携ができなければ,学校が地域の中で教えの共同体になることはできず,改革は失敗する。そして,子どもたちは世界に通用する能力を身に付けられず,働く所もなく,不健全な社会に成人していくことになる。それでいいのか・・・家庭と連携して,家庭生活の中で育てたい徳性をいくつか述べる。 ・ 栄養のバランスのある食事がとれるようにすることで,精神の安定を図り,学習 を支える体力が養われるようにする。(徳性@) ・ 洗濯のできた清潔な衣服を着ること。(徳性@) ・ 規則正しい生活により,睡眠時間の確保とテレビの視聴時間の適正化を図る。(徳性@) ・ 室内の整理整頓に努め,健康で落ち着いた生活ができるようにする。(徳性@) ・ 家庭での生活の中で,大人が模範を示すことにより,人や物に気を使い,家族内の約束や社会のきまりを守ることの大切さに気付くようにする。(徳性A) ・ 節度ある生活に努め,金銭面等のトラブルのため,家族の安全が損なわれることのないようにする 。(徳性A) ・ 家族を慈しみ,身体の安全が損なわれることのないようにする。(徳性A) ・ 家族ぐるみで活動することや,遊ぶことを増やすことに努め,家族がかけがえの ない共同体であるという意識を高め,家族に愛し愛されているという実感がもてる ようにする。(徳性B) ・ 勉強部屋等で子どもが孤立した生活に陥らないようにする。(徳性B) ・ 共感的な聞き方話し方に努め,家族に認められているという実感がもてるようにする。(徳性C) ・ 家庭生活の中で,向上心(あこがれ)をもち,粘り強くやり遂げることの大切さが 実感できるようにする。(徳性D) ・ 家庭で学習習慣が身につき,自信がもてるようにする。(徳性D) 次に,家庭での学習時間のおよそのめやす(3ケ年計画)を示す。
もし,学区の全児童の家庭が,ここに掲げた全ての徳性を達成したら,その学区の健全化は可能である。もし,市町村の全児童の家庭が全ての徳性を達成したら,その市町村の健全化は可能である。もし,全国津々浦々の学区で保護者と教師が協同して全ての徳性を達成したら,日本社会の健全化は可能である。 「善の研究」で知られる西田幾太郎先生の門下生,森 信三先生は,大阪天王寺師範(現・大阪教育大学)での講義の中で,吉田松陰先生の教育者としての足跡に触れ,「教育は,教え子の将来を見通して,魂に火をつけ,その全人格を導くことである。もって,その地方の改革の動力となすことを理想とする。」と述べておられる。教育が,魂の問題であり,社会の改革を究極の目標にするのであれば,教師が身を修め,勉学に勤しみ,社会の現状をとらえ,自らの魂を鍛えることは,欠くことができない。 兵庫県朝来町立山口小学校の卒業生たちは,「山口小学校で勉強したから,今の自分がある。」と,言うそうである。そして,9割以上の保護者が,学校の教育に満足しているそうである。もし,山口小学校の教師が,決められた教材を,型通り授けること以外に,何らなすべきことを知らないでいたら,このような成果は到底あげられなかったであろう。それどころか,人生を振り返った時,何一つ残る物がないという哀れな教師の末路が待っていただけかもしれない。山口小学校は,森 信三先生の掲げる教育の目標を達成しつつあると言えるのではないだろうか。 教育の力を過小評価してはならない。要は,教育の力を信じ,学校を学びや教えの共同体としてとらえ,5年・10年・20年と協同して粘り強く取り組む覚悟をするかどうかである。 2 発展的学力の充実を図る指導
(1) 研究的な授業での指導
@ 問題解決力と数学的な考え方
基礎学力の定着がほぼ図られた状況であれば,算数教育の中心ともいえる「発展的学力の充実を図る指導」に是非進みたい。その中でも,問題解決力と数学的な考え方は,核心部分である。子どもたちは,将来,職場で,様々な問題を論理的に考え解決していく場面に遭遇するであろう。また,数理的な処理が必要な場面もあろう。算数科では,数理的な処理の場面で,問題解決力をつける指導を行う。子どもたちにとって,結果としての知識・技能だけではなく,学び方を学ぶという意味からも大変重要である。指導のポイントを,第3学年(2位数)×(1位数)の場合で述べる。 【課題把握の場面】
・ □には,好きな数字を入れて問題作りをする。9(0・9),12,28,・・・・・・ 未知の学習と既知の学習に整理して学習の順番を決める。12×3,28×3,・・ 本時の問題を「12こ入りのあめ3はこでは・・」にする。 [学習の整理〕 ・ 既習の問題を想起する。7×3,5×3,2×3,10×3, 〔既習事項の想起〕 ・ 既習事項との違いから課題を決める。一般的な方法を求める必要のある時は,課題は一般化しておく。〕 課題「(2けた)×(1けた)の計算の仕方を考えよう。」 【自力解決の場面】 ・ア,12×3 イ,12×3 /| /| | 5×3=15 | 2×3= 6 7 × 3=21あわせて36 10 × 3=30あわせて36 (九九を使って) (位ごとにかける) 〔ここではどちらの方法がよいかは決まらない。それぞれのよさを共感的に認め合えるようにしておくこと。〕(徳性BC) 【集団解決の場面】 ・ 課題「(2けた)×(1けた)の計算の仕方を考えよう。」から, (2けた)×(1けた)の他の計算の場合でどちらの方法がよいかを話し合う。 ア, 28×4 イ, 28×4 //|| /| || | 2×4= 8 | 8×4=32 || 8 × 4=32 20 ×4=80 |9 × 4=36 あわせて 112 9 × 4=36あわせて 112 アの方法は,めんどう。イの方法は,どんな計算でも簡単にできるからよい。 〔数学的な考え方(一般化・簡潔化)による課題解決〕(徳性D) 問題解決「12こ(28こ)入りのあめ3(4)はこの個数は,36(112)こ」 【発展の場面】 ・ 課題にそい,数学的な考え方によってまとめる。「(2けた)×(1けた)の計算は, どんな時でも簡単にできるので,かけられる数を位ごとに分けてかけるとよい。」 ・ 次に考えたい計算について話し合う。135×8,45×23,・・・・・・・ ここには,子どもが新しい問題に出会ってから,解決に至るまでの学び方が込められている。(2けた)×(1けた)の計算が出来たのは,被乗数を分割するというアイデアを導入したからである。このことを,子どもたちに考えてもらいたいものである。 思考力を高めることが,新指導要領のねらいならば,ここで,教師が「位ごとに分けてかけましょう。」と,言ってしまったら,子どもが考える場面を奪うことになる。 別のアイデアを導入することによって計算の範囲を拡張することを学ぶ場面は,他にもある。例えば,異分母分数のたし算・ひき算は,大きさの等しい分数をつくるというアイデアを導入することによって,計算が可能になってくる。また,計算の意味の置き換えをすることによって計算を可能にしていくことを学ぶ場面もある。例えば,÷0.2等小数で割る計算では,等分という意味を「1つ分を求める」と,置き換える。そのことによって,小数で割ることを可能にしていく。これらは全て,拡張的思考と呼ばれる数学的な考え方である。 集団解決の場面で.ア,イどちらの方法がよいかを決める根拠になったのは,一般化・簡潔化と呼ばれる数学的な考え方であった。ここで,数学的な考え方全てに言及することはできないが,数学を進めるうえで必要な手法(知恵)を学んでいるのだという意識をもってほしい。子どもが,数理的に処理する力がつけばよいというのではなくて,数理の裏にある先人の知恵に気付き感動するような指導をめざさなければ,とても,全人的な発達を叶えることはできない。 次に,算数の美しさについてであるが,解法アと,解法イを比べることで,解法イの良さ美しさが感じられるであろう。このようなことは,低学年でも扱えることである。例えば,かけ算九九では,習熟練習の前に,2+2+2+2+2+2+2+2+2を2×9と,簡潔に表した先人の知恵のすばらしさに気付くような指導を心がけたいものである。 算数・数学を数学的な考え方によって進めていく醍醐味や,式の美しさを感じることこそが,小学校学習指導要領解説 算数編 算数科改訂の趣旨(P2)に示された,「創造性の基礎を培う」ことになるのである。 時々,「算数・数学は生活に関係ない。」という算数離れの声を聞くことがある。生きる力に関係ないとでも言わんばかりである。しかし,これは,個人として関与していないか気付いていないだけのことではないだろうか。コンビニの商品管理,自分の家の建築等産業のありとあらゆる分野にわたって高度な数学なしでは,日本の現在の生活水準は,とても維持できない。小学校5年の児童ですら,日本の貿易と産業について学習して,資源のない我が国が生活していけるのは,高い価値の工業製品を輸出するからであることを理解している。今,この日本が生きていく術が失われつつあることを知っている教師ならば,小学校の低学年から,基礎学力の定着を図ることは勿論のこと,問題解決力と数学的な考え方を中心とする発展的学力の充実を図る指導に取り組まなければならないのではあるまいか。もし,日本の全ての小学校で基礎学力の定着を図る指導までしか行われなかったとしたら,国としての生きる力・国際競争力は失われ,国内で職が得られず,国民は今の生活を捨て去ることになる。 次は,指導のための教科書の扱い方について述べる。教科書は,指導のための本であるが,自習のための本としての側面もあるので,問題を解くためのヒントとして,数学的な考え方を書いている場合が多い。従って,子どもたちが,このヒントを見て解法の練習をしていたら,基礎学力を身に付けることはできるだろうけれども,それ以上の学びをすることはできない。問題解決力と数学的な考え方に関する指導法について研究して,「教科書を教える」のではなくて,「教科書で教える」必要がある。 {問題解決力については,算数教育ネットワーク岡山HP「算数科支援のポイント」参照} {数学的な考え方については,算数教育ネットワーク岡山HP「算数科における基礎・基本について」参照} A 課題選択のねらいと配慮事項 ○ 課題選択のねらい 課題選択のねらいは,2点ある。 ・ 算数の学習についての興味・関心・意欲を高め,主体的な問題解決の能力を伸ばす ・ 自己評価,課題発見,課題選択の能力を伸ばす。 ○ 配慮事項 ・ 現指導要領(平成4年度)から削除される内容については,児童の興味・関心のある場合は扱ってもよい。 ・ 上の学年に移行する内容は,扱わないのが妥当である。 この移行する内容について,指導要領が最低基準であるという談話が出て以来混乱が起きているようである。これについては,少し冷静に考えれば,すぐ分かると思う。もし,全国の全ての小学校で,児童の興味・関心があるとして,指導要領で削減した内容を,削減せずに指導したらどうなるだろうか。この度の改訂で,時間数以上に内容を3割削減したのは,基礎・基本の定着を図り,算数的活動を通して,算数への関心を高めるとともに創造性の基礎を培うためではなかったのか。文部科学省が改善の基本方針を破棄するとでも言っているか。そんなことはないのである。世界の産業界の趨勢から考えても,知識・技能の陳腐化が激しくなっている。基礎は限定して,創造的な思考力重視の教育に転換しない限り,日本は生き残れないのである。移行する内容を扱わなくても,思考力は高められる。いくらでも難しい問題は作れるのである。新しい学習内容に出会ったとき,学級の中に,既に前学年で学習済みの児童がいたら,学級全体で教材に挑みかかるという雰囲気は損なわれてしまう。少し早く学習したところで,大したことはないのに,つまらない優越感や劣等感が学級に漂って,害が多く益することは少ない。そんなことにかかわるよりは,思考力を磨くことに精を出すべきである。 ノーベル賞の受賞者数,コンピュータの基本ソフト,航空機製造,ロケットの打ち上げ等々外国に頭を押さえられていることばかりである。これで,日本に生まれてきたことに誇りをもてと言われても,それは難しい。創造的な思考力・問題解決力重視の教育への転換を図り,改革を進め,21世紀の後半には見るべき成果をあげ,日本に生まれたことを誇りに思えるような国にしたいものである。 {算数教育ネットワーク岡山HP「課題選択について」参照 B 算数的活動 ○ 算数的活動とは 算数的活動とは,数量や図形について目的意識をもって取り組む作業的・体験的な活動であり,その活動の中で,次の2点ができるものである。 ・ 楽しさや日常生活に役立つことが実感できる。 ・ 多面的に問題を解決したり,数や図形の美しさに感動したりするなど創造性の基礎を培うことができる。 ○ 算数的活動の事例 ・ 第1学年 何番目かを実際に並んで数える活動 ・ 第2学年 希望献立,好きな遊び調べをして,表やグラフの形に表す活動 ・ 第3学年 交通量調査をして,表やグラフに表す活動 ・ 第4学年 教室・体育館の床,運動場,学区,市町村等の面積を求める活動 ・ 第5学年 垂直・平行の関係を用いて目的地を表す活動 合同な三角形を並べて橋を作ることから,三角形の内角の和を調べていく活動 ・ 第6学年 プールに入る水の体積を求める活動 比を用いて長さ・面積・重さ等を求める活動 {算数教育ネットワーク岡山HP「算数的活動とは」 「算数的活動のできる単元 事例」参照} C 研究事例 ・ 算数への関心意欲態度を高める研究 「子どもが充実感を味わうための指導法」 「思考実験を促し学ぶ心を育てる指導法」 ・ 数量図形の概念形成・測定に関する研究 「量概念の形成過程に関する児童の実態」 「見積もる力を高める指導法」 「郷土を生かし,概測の能力を高める指導法(寄島干拓地の面積を測定して)」 ・ 個人差に応じる研究 「達成度分析表・診断表を利用した学習指導法」 (2) 日々の授業での指導
発展的学力の充実を図る指導を研究的な授業で行うことは,大切である。しかし,毎日という訳にはいかない。だからといって,授業のほとんどを占める日々の授業をいい加減に済ませることはできない。そこで,日々の授業では,基礎学力の定着を図りながら,一応問題解決のスタイルで思考力を伸ばす授業をする。そして,学力をどう使うかという話し合いをさせてはどうだろう。何のために学ぶのかということは,全人的な発達をめざすために最も大切なことだからである。また,科学に関わる偉人の伝記を読むこともすすめたい。キュリー夫人が何をめざして学んだのか,ノーベルがノーベル賞を設けたのはなぜなのか。子どもたちは,何のために学ぶのかということを考える上で,大きな示唆を得ることができるであろう。「人の一生は,その人だけのものに非ず。」と言われるが,偉人の魂にふれ,自らの魂に火がついたならば,真剣に学ばずにはおれないのである。授業中に騒いだり,飲食したり,化粧したりすることなど,到底考えられない。 3 人格の向上をめざす指導
(1) 生徒指導上の問題が多い場合
生徒指導上の問題が多い場合は,算数科で育てる徳性@〜Cがほとんど育っていない状況であろうから,ひとまず徳性Dの目標は棚上げして,次ような指導によって,徳性@〜Cの回復を図る。そして,ほぼ回復したら,基礎学力の定着を図る指導や,発展的学力の充実を図る指導によって,徳性Dの向上をめざす。今までの授業研究の誤りは,徳性@〜Cが育っていない状況でも,生徒指導に関係なく学力指導はできるとと考えてきたところにあるのではないだろうか。マスローによれば,生徒指導無ければ学力指導無しということになる。 【指導手順】 @ 生徒指導上の問題が多い場合の授業 算数的活動と算数的コミュニケーションで創る新しい授業の構想によって授業をする。算数的活動では,グループ活動によって,活動的で協同的で思索的な学びができるように配慮する。そして,話し合う場面では,話す力よりも聞く力を重視した算数的コミュニケーション能力が育つようにする。生徒指導上の問題が多い場合は,子どもたちは,孤立・無関心・無視・無気力・対立・喧噪の中で生活しており,徳性@〜Cとはほど遠い状況にある。したがって,森信三先生が指摘されているように,一斉授業だけでは,魂が人格が触れ合うことが少ないので,活動とコミュニケーションを重視した授業によって,人や物とどのような交わりの中で学べばよいのかとということを,学んでいくのである。 {算数教育ネットワーク岡山HP」算数的活動と算数的コミュニケーションで創る新しい授業の構想」 「問題解決と算数的コミュニケーションの段階」参照} A 生徒指導上の問題が多い場合の授業研究 授業研究にあたっては,「活動したか」「協同したか」「コミュニケーション(思索)ができていたか」だけで評価をして,問題解決力・数学的な考え方等の能力の達成度は,一時棚上げする。3つの観点の中で,特に細やかな観察が必要なのは,「コミュニケーション」である。孤立・無関心・無視・無気力・対立・喧噪をうち破るためには,静かに異質な考えに耳をそばだてる教師の対応が欠かせない。それが,友人の考えを尊ぶ子どもを育てることになり,学びの共同体を築くことになるのである。 生徒指導上の問題が多い場合は,子どもたちばかりではなく,教師も孤立・無関心・無視・無気力・対立・喧噪に陥っていることがあり得る。そのような時には,全ての教師が,授業を公開する必要がある。ただし,この場合の授業研究は,あくまで,徳性@〜Cを回復するために行う研究であり,「活動」「協同」「コミュニケーション」だけを問題にする。能力の達成は問題にしない。時には,指導案さえ必要としない。今まで全ての教師が授業を公開することが困難であったのは,能力目標を含めた全ての目標の達成度を問題にしたからではなかっただろうか。「活動」「協同」「コミュニケーション」だけを問題にするのならば,小学校でも中学校でも授業研究ができる。これによって,全ての教師が同じ学校の同僚であるという意識をもつことができ,教えの共同体づくりが一歩前進すると思う。 B 生徒指導上の問題が多い場合の授業参観 生徒指導上の問題が多い場合は,学校の教職員と保護者も,孤立・無関心・無視・無気力・対立・喧噪に陥っていることがあり得る。そのような時には,教師と保護者が教室の壁を背にして対立しているような,保護者が教師を評価するような授業参観は,改革しなければならない。そこで,授業参観ではなくて,授業参加にしてはどうだろうか。総合的な学習では,もう始まっているが,保護者や地域の方が,時には教師と同じように子どもたちを教えたり,時には子どもと一緒に学んだりするのである。 この授業参加の試みを,算数など教科教育にも是非取り入れたい。こうすれば,教師と保護者・地域の人々の関係が,孤立から連帯へ,対立から協調へ変わり,学校が地域にとってかけがえのない共同体に向けて大きく前進するだろう。 新潟県小千谷市立小千谷小学校では,我が子を中心に私事化されていた親たちの教育意識が公的になり,学校への批判が協力になり,建設的に話し合う連帯意識ができたそうである。小千谷小学校は,地域にとってかけがえのない共同体に変貌したのである。 授業参加は,生徒指導上の問題の多少に関わらず,有効であると思われる。これから,日本の標準になるかもしれない。 (2) 生徒指導上の問題が少ない場合
生徒指導上の問題が少ない場合は,徳性@〜Cがかなり育っていると思われるので,基礎学力の定着を図る指導や,発展的学力の充実を図る指導や,生徒指導上の問題が多い場合での人格の向上をめざす指導(算数的コミュニケーションで創る授業をさす。)を行った後,是非能力をどう使えばよいのかといった指導に進んでほしい。これこそが,人格の向上をめざす指導の核心である。能力第一主義の学力観の弊害ともいうべき,高い学習能力を反社会的な事に用いる事例が後を断たない。高い能力をもった人は,学習への意欲が高いが,能力をよりよく生かす態度が高いかどうかは別問題である。高い能力の育成を図れば図るほど,社会のためになるかどうかという高い倫理観の育成も同時に図るという教育に,小・中・高・大学・大学院全ての教科教育を改革していかなければ,社会の健全化は図れない。 【指導手順】 @ 生徒指導上の問題が少ない場合の授業 算数的活動と算数的コミュニケーションで創る新しい授業の構想によって授業をする。算数的活動では,グループ活動によって,活動的で協同的で思索的な学びができるように配慮する。そして,話し合う場面では,問題解決力を重視した算数的コミュニケーション能力が育つようにする。徳性@〜Dを全てめざし,能力をどう使えばよいのかということを,学んでいくのである。 研究事例をいくつか紹介する。 ・ 第4学年「面積」 単元学習プラン『環境を生かして学び続ける子どもたち』 子どもたちは,教科書,教室の床,体育館(選択),学区(選択),岡山県新見市と,次々に身の回りの環境を学習対象にして,面積を求める学習を進めていった。その中で,「数学的な考え方」「表現・処理」「知識・理解」を関連させて問題解決し,感動を味わうことができた。さらに,これを繰り返し体験することで,「意欲」が次第に高まり,能力も身についていった。このようにして,算数を郷土を理解することに役立てることを学んでいった。 ・ 第4学年「垂直・平行」(新指導要領では第5学年) 『巨大プロジェクト夢の大橋のすばらしさに迫る算数的活動の工夫』 子どもたちは,瀬戸大橋の秘密をさぐる活動をする中で,垂直・平行が用いられていることに気付いた。そして,体育館いっぱいに巨大な瀬戸大橋の図を描く活動を通して,算数のすばらしさや人々の智恵のすばらしさに気付いていった。このようにして,算数を「瀬戸内海に橋を架けたい」という人々の願いを叶えることに用いたことを学んでいった。 ・ 第6学年「比例・反比例」 (新指導要領では,比例の式・反比例は中学校第1学年,比の値は削除) 『算数を生活に生かしていく子どもたち』 子どもたちは,牛乳パックの車が走る場面からクイズを考えることで数量の関係に興味をもった。 そして,比例・反比例の関係を学び,これを活用して,全校集会で使うロール状障子紙の本数や求めたり,料理用の棒ばかりを作ったりした。このようにして,算数を生活に生かしていくことについて学んでいった。 ・ 第6学年「拡大・縮小」(新指導要領では,中学校第3学年) 『わたしたちの学校にやってきた三重塔』 子どもたちは,郷土の誇りである西大寺観音院の三重塔の復元図(実際の2分の1の縮図)をかく活動を通して,拡大・縮小・対称の知識を活用することを学び,300年前に塔を建立した先人の知恵のすばらしさに気付いていった。このようにして,先人が算数を郷土の建築に役立てていたことを学んでいった。 {算数教育ネットワーク岡山HP「単元学習プラン4年 面積」参照} A 生徒指導上の問題が少ない場合の授業研究 授業研究にあたっては,「活動したか」「協同したか」「コミュニケーション(思索)ができていたか」だけではなく,「問題解決力・数学的な考え方等の能力が達成できたか」についても検討する。 そして,先人が算数を社会のために生かしていることを,どのように受けとめているかを,最も注意してみるようにする。 一部の学者の中には,自分の研究の興味に引きずられて,社会的な影響を省みない傾向がある。先般も,全国を震撼させる不幸な事例があった。残念なことである。 岡山県の誇る物理学者仁科芳雄博士は,明治43年,弟正道氏に宛てた手紙の中で,「人間性の修養を怠れば,学校での成績は良くても,社会で役に立たない人間になってしまう。」と,忠告しておられる。教育にあたる者は,心すべきであろう。 W おわりに
算数を含む教科教育は,学校教育の中で大きなウエートを占めているにもかかわらず,構造的な問題をかかえている。本稿は,教科教育における構造改革のさきがけを,算数科において成していくための取り組みを述べようとしたものである。 指導には,大きく分けて,基礎学力の定着を図る指導,発展的学力の充実を図る指導,人格の向上をめざす指導がある。どの指導にも良さがあり,関連して指導すれば効果があるだろうが,それぞれの指導の良さ大切さを主張して,かえって構造的な行き詰まりに陥っているように思われる。つまり,指導法が孤立・対立・・・状態にあるといえる。そこで,教育の目的を,教育基本法から,「全人的な発達」と捉え,算数科で育てる徳性に留意して,関連的に指導する方法について述べた。いわば,指導法の共同体化を図ろうとしたのである。 ただ,ここで紹介した研究事例は,個々に実践されたものである。全体構想は,ここで初めて発表するものであり,構想に基づいた実践はこれからである。 教育に,社会に,お役に立てれば望外の喜びである。 *参考文献
・ 小学校学習指導要領解説 総則編 平成11年 5月 文部省
・ 小学校学習指導要領解説 算数編 平成11年 5月 文部省
・ 中学校学習指導要領解説 数学編 平成11年 9月 文部省
・ 高等学校学習指導要領解説 数学編 理数編 平成11年12月 文部省
・ 大学 宇野哲人全訳注 講談社学術文庫
・ いきいきっ子 読売新聞社婦人部編
・ 吉田松陰 山岡荘八歴史文庫 講談社
・ 修身教授録 森 信三 致知出版社
・ やっぱり『読み・書き・計算』で学力再生 岸本裕史・陰山英男 小学館
・ 授業を変える学校が変わる 佐藤 学 小学館
・ 教育時報 平成13年8月号 岡山県教育委員会
《 資 料 》
たし算の表 ひき算の表
( )年( )組( ) ( )年( )組(
)
た す 数 (0〜9) ひ く 数
(0〜9)
九 九 の 表 かけ算の表
( )年( )組( )
( )年( )組( )
か け る 数 (1〜9) か け る 数
(0〜9)
わり算の表1
( )年( )組( )
わ る 数 (1〜9)
あまりのある時は,7÷3=2・・・1のようにかく
わり算の表( )
( )年( )組( )
わ る 数 (1〜9)
あまりのある時は,7÷3=2・・・1のようにかく
◎ わり算の表1,2,3,4 (わられる数10〜19,10〜29,10〜39,10〜49)
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