数学的活動とコミュニケーションで創る新しい授業の構想
目的を持ち、共に創造的に学ぶ児童を育てよう!

1.授業の構想にあたって

 来るべき21世紀における、生き生きとした人間像を考えてみると、まるで隣の町に行くような気安さで外国に出かけ、世界中の誰とでもコミュニケーションがはかれ、集団の目標に向かって、協調しつつ創造的な仕事ができる人間が望まれるのではないだろうか。
 そのような時代をよりよく生きていくために、児童はどのような学び方をしていけばよいのかを考えると、説明や指示を待つのではなく、創造的に自ら学ぶ能力・態度をハイレベルで身につけるとともに、それを社会の中でよりよく生かしていく態度を身につけるような学び方を、友達とのかかわりの中でしていく必要があると考える。
 従来教科教育の目標は、能力優先で捉えられてきたのではなかっただろうか。
 友達を尊重し、健全な人間関係を保ちつつ共に楽しく学ぶことや、学んだことを社会の中で生かすという、いわば社会的人間的な学ぶ目的を意識することを二次的に捉えてはこなかっただろうか。
 社会問題となっている数々の人間的でない行動の背景には、このようなことも考えられるのではないだろうか。
 人間性豊かな社会を築いていくためには、教科教育においても、能力を育てることにとどまるのではなく、”人間”を育てるという視点に立った新しい授業を構想し創っていく必要があるように思われる。
 このことから、授業の構想にあたっては、算数科の担うべき能力と教科を越えた社会性人間性を同時に育てようと考えた。
 すなわち、算数的活動を通して、数量や図形について自ら問題・課題を見つけ創造的に解決していくとともに、学ぶ楽しさや算数が日常生活に役立つという実感がもてるようにする。
 そして、算数的コミュニケーションによって、自らを律しお互いの考えを共感的に聞くと共に、筋道を立てて自分の考えを話すことが出来るようにする。
 このようにしたいと考えた。
 以上のことから、よりよく生きていくための学びの姿を次のように考えた。

2.算数科における『よりよく生きるための学びの姿』

 算数科における、望ましい学びの姿を、『規律と思いやりのある人間関係を保ちつつ、数量や図形などについて、共に主体的創造的に学び合い、学んだことを生活の中で生かそうとする(学ぶ目的を意識する)』と、考える。
 『目的をもち、共に創造的に学ぶ児童』
 自分で問題・課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、
行動し、よりよく問題を解決する能力

┃  ◎主体的・創造的に学び、学んだことを社会に生かしていく能力・態度(創造的自己学習力)
┃    ・数量や図形など興味・関心をもった学習対象について自ら問い、問題や課題を見つける力
┃            (自己目標設定力・自己決定力)
┃    ・数学的な考え方、表現・知識を活用して創造的に問題を解決する力
┃      *数学的な考え方(@事象を数理的にとらえる A帰納・演繹・類推 B一般化・統合・拡張・
┃       適用など)
┃      *創造的思考力(多面的に問題解決する力、探究心、直観力、感性など)
┃    ・学習の成果を自ら振り返る力(自己評価力) → 算数が役立つことに気付く 




┃  ◎自律と共感の能力をもとにして、規律と思いやりのある人間関係を築いていく能力・態度
┃            (社会的知性・社会的生活力・共生力)

 自らを律しつつ、他人と協調し、他人を思いやる心や感動する心など、
豊かな人間性と、たくましく生きるための健康や体力

   ○自分について
     ・自分の本当の気持ちを自覚して、適切な判断を下す能力(自己認識・判断)
     ・衝動を自制し、不安や怒りのような感情を制御する能力
     ・目標の追求に挫折したときでも、楽観を捨てず自分自身を励ます能力
     ・目標を達成した感動、真理を探究した感動・喜びなどを感じ取る能力

   ○他人に対して
     ・他人の気持ちを感じ取る共感能力(他人の欲求や苦境を理解する能力)
     ・集団の中で調和を保ち協力しあう社会的能力

3.授業の構想
  先に考えた『目的を持ち、共に創造的に学ぶ児童』を育てるために、次の4点(@〜C)を1単位時間や単元で繰り返し経験できるように、授業を構想する。

学習過程 自己・社会的
学習力 生活力
学習活動 学習支援







関心・意欲
(自己目標設定力)
@数量や図形など興味・関心を持った学習対象について、自ら問い、問題や課題を見つけ、解決への意欲をもつ。
・いままでの学習の整理や、本時との比較などで、問題や、課題を見つける。
(例)
・意欲を喚起する問題を提示する。
・既知と未知の問題の整理で、今日の問題を決めるようにする。
・既知の問題の比較から、一般化できる課題を決めるようにする。







  


思考・活動感動
(創造的解決力)
(自分自身を励ます能力)

(達成感)
A意欲的にもった自らの問いについて、数学的な考え方、表現・知識を活用して創造的に考え、活動し、自ら解決する。
・解決の方法や結果について、今までの学習から類推する。
・多様な解決の仕方を試みる。
・自ら解決した感動を味わう。
(例)
・自分なりの方法で解決できるように、学習履歴等もふまえて助言し(数の置き換え、既習のアイデアの活用等)、励ます。
・答えの確かめとともに、他の方法による解決を試みるように働きかける。








思考・活動感動

(共感)

(感情制御)

(充実感)
Bお互いの考えを共感的に理解し合い(問題点、共通点、相違点)、それぞれのよさが認め合えた感動を味わう。
 集団解決の場への『参加』の実感をもち、以降の話し合いへの参加意欲を高める。
 考えを高め合い(分類整理、統合、選択)、数理的な処理のよさ(知恵)が分かった感動を味わう。
・考えを共通点、相違点に着目して分類整理する。
・考えの共通点に着目して集合的に統合する。
・簡潔化、一般化の考え方によって、よりよい考えを選んでいく。
(例)
・お互いの考えの真意(聞いてもらいたいこと)を分かろうとして、共感的なしぐさ(体の向き、相づち、表情、目線等)で、尋ね合うように働きかける。
@指導者→児童 A児童⇔児童
・お互いの考えのもとになっているアイデアに注目するよう働きかけ、それぞれの考えのよさに共感しやすくする。
・教材のねらい(分類整理、統合、選択)に沿って、協力し合って、考えを高め合うように働きかける。





意欲
(自己評価)
(自己目標設定)
C自分の解決の成果と問題点、友だちとの学習による進歩を確かめ、意欲的に次の学習内容を考え自ら学ぼうとする意欲を強めていく。 (例)
・自分の解決の仕方、友達との学習の様子を振り返ってまとめると共に、次の学習への意欲づけになるようにする。
・調べてみたいこと等を問いかける。

教育情報コーナーに  戻る

Click here to