ICOM IC-700R
アイコムが、初めてHFの商品として発売した、ある意味貴重な受信機です
アマチュア無線業界には、VHFトランシーバーから始まったアイコム(当時は、井上電機製作所)が、最初に手がけたHF機です
1967年の発売 ここにあるものは68年製のようです(シリアル・ラベルが残っていないので不正確)
50〜144MHz帯の半導体化したトランシーバを下げての、この業界デビューだったアイコムです
本機もオール・ソリッド・ステートという、当時としては先進的なデザインです

この時代、トリオは、国産初のトランシーバ TS-500 を発売、68年に510の登場ですが、VFO等除いてほとんど真空管構成でした
入門向けとしては、JR/TX-310シリーズの登場がありました
こちらは、VFO 4.9〜5.5MHz、 1stIF 8MHz台、 2ndIF 3.395MHz の、コリンズ・タイプのダブル・スーパー・ヘテロダイン構成の受信機です
八重洲と言えば、FL/FR-DX400シリーズが絶好調という時代です(FT-DX100の登場は69年)
入門向けには、FL/FR-50シリーズがありました
こちらは、1stIF 5MHz台固定、 2ndIF 455KHz 各バンド毎に発振周波数の異なるVFO の、ダブル・スーパー・ヘテロダイン構成の受信機です
言わばHF先行各社の入門シリーズの上位というか、ソリッド・ステート版を狙ったような製品に見えます

受信機の構成としては、IF:9MHzのシングル・コンバージョン、最低の機能しか持ち合わせていません
それでもマーカー内蔵など、オプションの必要はないような最低限の構成が標準でなされています
AC100VとDC12V、そのいずれか電源ケーブルの差し替えによって両方に対応できるようになっています
相方の送信機、IC-700Tには、VFOの内蔵はありません
この点も、HF先行2社の入門シリーズと同等です
S2001 2本を軽く使った50W出力設計、このファイナルと、ドライバ/ミキサに12BY7A 2本を使用し、あとは全て半導体というデザインです
電源については外付けで、AC100V用とDC12V用の2種類の用意がありました
DC12V運用が可能なセットと言うことになります(ソリッド・ステートのメリットを、出そうとしたものでしょう)

まずは、この受信機から整備開始です
シャーシは鉄製であり、それなりに時間の経過が見受けられますが、部品などについては劣化は感じられません
フロントパネルはアルミ製で、こちらは綺麗です
電流保護だけ設定して、いきなり外部からDC12Vを供給してみました


幅255 高さ160 奥行き235  単位はmm 約6.1Kg

アイコムの特徴というか、意識してそうなっているのだと思いますが、FETが多用してあります
FET・・・二乗特性、真空管に近い動作ということで、回路構成や基板構成も何となく真空管の設計に近い気がします
IF段のアンプに使っているFETには、中和が取って(帰還がかけて)あります(エア・トリマが付いている)

まずはフロント/お顔から
コンパクトかつシンプルです
3.5MHz帯から29MHz帯まで、VFO+FIX水晶3個でカバー
28MHzの位置で、逆コンバージョンで10MHz帯の受信が出来るようになっています(プリセレクタの位置で、結果として切り替わる)
HF5バンド+10MHz帯に対応、です
モードは、AM、AM-ANL、SSB、CW
逆サイドバンドは受信できません

こちらは、リアから
電源トランスは非常にコンパクト
大きく見えるシールドの中身はVFO
メカフィル風に見えているのは、9MHzクリスタル・フィルタです
IF:9MHzのシングルコンバージョン・・・US製品ではSWAN製品、八重洲無線ではFR-50等と同様に、各バンド毎にVFOの発振周波数が異なります
29MHz受信時は、20MHz前後を発振していることになります
当然、安定度には問題が生じるでしょう
US8Pボディプラグが手元になく、仮にUSソケットで外部からDC12Vを供給して、テストをスタートしました

照明ランプ(ダイヤル2個、メーター1個の計3個)
通電すると400mA近く流れます
そのほとんどは、照明ランプの消費電流です
ここは今風に、LEDランプに交換しました
無信号時の消費電流は、一気に低下して100mA程度に

こちらがボトムを撮したもの
RFチューンが独特です
IC−71にも採用してあるような糸掛けの機構が、ここでも採用されています(本機が先輩です!)
何が糸掛けで動いているかと言えば、コイルのコア、そうスラグチューン構造になっています
バンド切替はVFOのみで、RF系のバンド切替はありません
バリコンと連動して、コイルのコアが動くという、ユニークな構造で、3.5〜30MHzをカバーします
ヒントは、DAVCO DR-30です

こちらがRFチューン部のアップ写真です
独立したシールド・ケースに収まっています
中央に見える2つのコイルのコアと、バリコンの動きがひとつになるように、糸掛け構造が用意されています
左上にチラッと見えているのはマーカー用500KHzクリスタルの頭です
リアパネルに、50/100KHzの切替が出来るSW(センターOFF)が取り付いています
プリセレクタ・ユニットを取り外して、反対側から見たものです
ANT側コイルのコアの動きがおかしくなったので、分解して修正しました
スプリングを押さえているワッシャが、スプリングに食い込んでいました
ボビンの固定も瞬間接着剤で!
これでRF部もきちんと調整が出来ました
シングル・スーパーの強み?で、トラッキングの必要なコイルは2つで済みます

こちらが問題?のVFO部です
シールドケースを取り払って撮しています
各バンド毎に発振コイルが用意してあります
水晶ソケットは、FIX-CH用です
バリコンそのものは頑丈そうなものが使ってありますが、バンド切替SWは、普通のベークライト製、SWANのようにタイト製の採用ではありません
x−Lock組込前の様子です

今回、一番悩ませられた原因があったところです
バンド切替に連動して、発振コイルを切り替えます
たまたま調整のスタートを7MHz帯としたのですが、変な発振をするは、受信周波数は安定しないは、一体何が起きているのだろうと、バンドSWの接点や、バリコンのアースベロをクリーニングしても、一向に変化がありません
ここで試しにと、3.5HHz帯や14MHz帯に切り替えてみると、それなりに受信するではありませんか
もしやと思い、絶縁ドライバで、見えているスズメッキ線を一つずつ押してみると、外れた配線がありました
これが7MHz帯の発振コイルに接続されるスズメッキ線だった!!
トラブルの原因判明!です

IF関係の再調整・・・IFT以外に中和(帰還)があります
発振しない手前で、高感度かつ安定に受信できるところを、手探りで探しました!
3.5〜14MHz帯に於いて、40dbμV入力でS9に設定できました
電源接続ケーブルについては、8Pボディを入手して、AC100V、DC12V接続の2本を用意し、受信機内部には12Vの低損失3端子Reg-ICを組み入れました

IFフィルタ以降で(IF段で)利得を取って、混信に強い設計というパターンに比べ、非常に静かです(IFノイズは、全く気にならない)
AGCのリリースは、強信号に対しては遅い設定です(まるでピーク・ホールドされたような、Sメータの動き)
ただ、9+の強力な信号については、AGC動作が追いついていません(歪みが生じます)
RFゲインは、ちょっと絞っただけで大幅に感度低下します(これは、使いづらい!)
受信音に関しては当時の固めの音で、それなりの音質で聞くことが出来ます
VFOのドリフトは、当然ありますが、意外と少ない・・・FR−50B等とは、比較にならない位、安定です
余談ながら、本機同様に高い周波数を発振するVFOの構造を他に見てみると、例えばSWANでは、配線は「線」ではなく「板」が使ってあり、VCはステアタイト製、VFOケースそのものの機械的強度もかなり頑強です
手を入れようにも、機械的な強化策の採用は不可能ですので、ここはいつもの「x−Lock」の組込を考えようと思っています(本機には、RIT回路が組まれているので、この点では組込は楽そうに思います)が、オリジナルのままで結構安定に聞こえるので、むしろここでは検波回路をリング検波からいつものDBMに変更することを優先しようか・・・と、悩んでおります!?
興味深い点、時代を感じる点
1.RF プリセレクタ
  先にもご紹介したように、スラグチューンとVCの組み合わせで高いQを得ようとしてあります
  カスケード型FET採用のRFアンプの採用とマッチさせているのでしょう
2.CWモード
  IF段までSSBと何も変わらず、検波後にTr1石によるAFフィルタが組まれています
  IF−CWフィルタは、一般に「高額で手が出せない状態」だったのであろうと想像します
3.AGC
  IF最終段の出力と、オーディオ段からの2系統でAGC電圧を得てあります
  大入力時の立ち上がりの悪さについては、検波回路をDBM化することでカバーしようと思います
  DBM方式のものは過大入力にも結構耐えますので、変にAGC回路をいじるより正解と思っています
4.FET多用で、真空管方式に近い(真空管を、FETに置き換えたような)設計
  ある意味、非常にシンプルな回路構成が採用されていると言うことです
  先にも記しましたが、RF〜IF段、VFO回路には当時出始めのFETが多用されています(7石)
  RFトップは、FETカスケード、ミキサとIF2段はFETで、IF3段目がTr(IF3段増幅)
  という構成です
  VFOですが、ちょっと驚くくらい安定に発振しています(7MHzの受信時、16MHz台を発振)
  安定化電源など含め、ICの採用は一つもありません
  7FET、15Tr、18Di と言う構成です

以下、今回取り組んだ改造について、ご紹介します
改造は大きく2点、IF基板下のスペースに収納しました(基板の取り付けは、小型のL金具を使用)
1.ダイオード・リング検波からDBM方式に
 今回も、SN16913Pを使用しました
 白っぽく見える蛇の目基板がそのものです
 オリジナルの基板からダイオードなど取り外したあと
 1.5D-2Vで、IF出力を引き出しました
 キャリア信号も同様に、IF基板から引き出しました
2.VFO安定度の向上/x-Lockの組み込み
 中央に見えるのがx-Lock基板
 送信機接続用のVFO出力レベルが数Vあったので
 ここから1.5D-2Vで引き入れました
 VFO内部の改造は、RIT回路に手を入れました
VFOシールドケース内部の様子です
ここに見える基板に、全ての回路が乗っています
このRITの回路に少し手を加えて、x−LockのVAR端子を接続するようにしました(黄色線がx−LockからのVAR信号線)
固定抵抗3本と、ダイオード1本を追加、です
基板中央に丸く見えるのは、RITのセンターFを合わせるためのVRの裏側です
x−Lock動作表示2色LEDは、ご覧のようにメーターの右上隅を上から照らすような形で取り付けました
左写真中央で、Lock状態を示す緑LEDが点灯しているものがそのものです
メーター照明に、白熱球から入れ替えて使っているLED照明は白っぽいですから、「赤」「緑」いずれの点灯状態も、フロント面から何とか目視で判定できます
今回は、フロントパネルに穴を開けることは止めました!
簡単に、3端子レギュレータを組み込みました
受信機全体を定電圧化・・・です
低損失のもので、0.5V以上の電圧差で動作するものを選択しました
PLをLED化したもので、最大でも0.4A程度
ということで、1Aクラスのものを横着してシャーシに既設のビスを使って直付けです
関連して、基板/電源部のパターン1箇所をカットしました
AC/DCいずれの運用時にも活きます
定電圧ICですが、少し暖かくなる程度の発熱です
照明・AF回路などは、この12V定電圧から供給
その他内部の定電圧化は(9V)、この定電圧化された12Vから従来どおりです(定電圧化を二重に)
ゴールデンウィーク前半に取り組んだ一仕事です
得られる音色は好みのものになり、大入力時の歪みもある程度改善され、またVFOの安定度についてもオリジナルでもそこそこ安定だったものが、より安定なものになりました(これなら、IC-700Tを用意して送信しても、相手からドリフトの指摘は無いでしょう)
いずれも、私にとって他の古いマシンに対して実績のある改造作業です
 
受信感度について、実測値です
いずれも、モードSSB時、S/N10dbが得られるSSG信号の値です
3.5MHz帯 0.3μV => 0.4μV
7MHz帯  トラップをショートした状態で
 有効にすると、7/14MHz帯の
 感度低下が著しい 
0.3μV 0.25μV
14MHz帯 0.5μV トラップ取付の変更や
 ケーブル配線の見直し後 
0.3μV
21MHz帯 0.8μV 0.5μV
28MHz帯 0.8μV => 0.6μV
実用に供する内容です(仕様は、0.5μV S/N10db以上)

アンテナ入力に直列に入っている9MHzのTRAPの調整を・・・というところで、このTRAPがジャンパ線でショートされていることに気付きました
どおりで、コアを回して何も変化しなかったはずです
このショート・ジャンパを外すと、TRAP効果はしっかり得られます
ところが、特に7/14MHz帯の感度が大幅に低下します(上表左はTRAPをショートした状態での計測値)
そこでTRAPを、オリジナルのアンテナ経路に直列挿入から、グランドに落とすように配線を変更しました
そして単線で接続してあった、アンテナ・コネクタからプリセレクタ・ユニット間の配線を1.5D-2Vに変更し、マーカー出力もTRAPに結合するように変更しました
これらの効果は絶大?で、結果は、上表右の値です
VFOのリニアリティ調整を少しやってみましたが、とても±1KHz以内にとかいう風にはいきそうにないので適当に止めました!?(現状±5KHz以内程度、近い周波数でマーカーで校正すれば大幅に改善)
最後に少し気になるのは、AGCの効き具合・・・強力な信号に対しては歪みます(RFゲインを手動で絞らないと)
回路図がないので(初期モデルの回路図はあるのですが、AGC回りは明らかに変わっています)、検波回路のレベル調整の範囲でゴソゴソやっています
とりあえず、9+程度の信号強度までは問題なく受信するようになりましたが、9++の強力信号についてはまだ歪みが生じます
色々試した中で、AGCでコントロールできる範囲も決して広くないことが分かってきました
VFOのリニアリティと、このAGC問題に手を付けると、泥沼に足を突っ込みそうで、ここで止めることにしました(使いづらいRFゲインコントロールを使うことなく強力信号の受信に耐えるよう、検波部とAGCについては、もう少しやってみようかと・・・)
 2017.05   JA4FUQ

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